11月3日は文化の日です。美術館や展覧会のニュースが増えるこの季節、「障害者アート」「アール・ブリュット」という言葉を目にすることもあるかもしれません。ご本人やご家族からは「絵を描くのが好きだけど、それを続けられる場所はある?」「作品を誰かに見てもらったり、売ったりできるの?」といった声を聞くことがあります。実は日本には、障害のある人の文化芸術活動を国や自治体が後押しするための法律があります。この記事では、その法律のしくみと大阪府の取組み、そして表現を続ける場所の選び方と、作品を外に出すときに確かめたいことをやさしく整理します。
障害のある人の文化芸術を支える法律——平成30年にできたしくみ
平成30年(2018年)6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(平成30年法律第47号)が公布・施行されました。この法律は、文化芸術が、つくる人や楽しむ人の障害の有無にかかわらず、人々に心の豊かさや相互理解をもたらすものだという考えに立ち、文化芸術活動を通じた障害のある人の個性と能力の発揮、社会参加の促進を目的にしています(第1条)。
基本理念(第3条)には、専門的な教育によらずに人が本来もっている創造性が発揮された作品が高い評価を受けていて、その中心になっているものが障害のある人の作品であることなどをふまえ、芸術上価値が高い作品の創造への支援を強めることがうたわれています。「アール・ブリュット」と呼ばれる作品が注目される背景には、こうした考え方があります。
国は文部科学大臣と厚生労働大臣が基本計画を定め(第7条)、都道府県や市町村も計画を定めるよう努めることとされています(第8条)。法律が国と自治体に求めている主な施策は、次のとおりです。
- ① つくる機会を広げる
障害のある人が、福祉施設や学校などで必要な支援を受けながら文化芸術をつくることができる環境を整える(第10条)。 - ② 発表の場をつくる
公共の施設などで作品を発表する催しを開いたり、作品を海外へ発信したりする(第11条)。 - ③ きちんと評価し、残す
芸術上価値が高い作品が適切に評価されるよう調査や専門的な評価の環境を整え、記録・保存のための場所を確保する(第12条)。 - ④ 権利を守る
作品をつくった人の所有権や著作権などを守るため、制度の普及啓発、契約の結び方に関する指針の作成と公表、契約のときの支援を充実させる(第13条)。 - ⑤ 販売や公演を支える
芸術上価値が高い作品の販売や公演などが円滑に、適切に行われるよう、企画や対価の受け取りなどについて事業者との連絡調整を支援する体制を整える(第14条)。 - ⑥ 身近な相談先をつくる
本人や家族などからの相談に応じるため、地域ごとの身近な相談体制を整える(第16条)。
大阪府の取組み——発表・販売の支援が続いています
大阪府の資料によると、府は平成13年度から、国の障がい者文化芸術の拠点である国際障害者交流センター「ビッグ・アイ」(堺市)などと連携して、文化芸術分野での障がいのある人の活動支援に取り組んできました。現在は、舞台芸術の「障がい者舞台芸術オープンカレッジ」、展覧会の「障がい者アート企画展 about me “わたし”を知って」、作品の販売などを支援する「障がい者アート作品販売等支援 capacious」といった取組みを行っています。
また府は、令和3年4月に第5次大阪府障がい者計画へ文化芸術活動に関する内容を盛り込み、令和6年4月の中間見直しで、この法律にもとづく府の計画(「大阪計画」)として位置づけています。府の資料では、障がいのある人の主体性を尊重しながら、表現の場や発表の機会に誰もが参加でき、本人が望む場合には「市場への挑戦」もできる環境づくりを進める方向が示されています。
展覧会や公募、作品販売の支援などは年度によって内容や募集時期が変わります。参加を考えるときは、大阪府やお住まいの市のホームページ、各事業の最新の案内を確認してください。
表現を続ける場所と、作品を外に出すときに確かめたいこと
絵や詩、工作などの表現は、まず「続けられる場所」があってこそです。就労継続支援B型事業所の中には、生産活動のほかにアート活動に取り組んでいるところがあります。ただし、アート活動がどのくらいの頻度で行われるか、作品が販売や展示につながるか、販売したときの収入がどう扱われるかは事業所によってさまざまです。工賃のしくみについては工賃はいつ、どうやって支払われる?——支払日・明細・計算の決まりをやさしくで解説しています。
作品を展示したり、販売したり、写真をホームページやSNSに載せたりするときは、次のような点を確かめておくと安心です。
- 作品は誰のものか
作品の所有権や著作権は、原則としてつくった本人にあります。法律も、作品をつくった人の権利を守ることを求めています(第13条)。 - 使い方への同意
展示・販売・グッズ化・写真の掲載など、どの使い方に同意するのかを、本人がわかる形で説明してもらい、できれば書面で確認する。 - お金の扱い
売れたときの代金を誰がどのように受け取るのか、手数料や材料費の扱いはどうなるのか。 - 名前や顔の出し方
作者名を本名で出すか、ペンネームにするか、顔写真を出すかどうか。
さくら福祉訓練所・さくら作業所では、絵や詩を描くアート活動に取り組んでいます。利用者さんが綴った詩をもとにアーティストが絵を描くダスティプロジェクトもそのひとつです。事業所の秋の様子は事業所の秋——ハロウィンの貼り絵とレクリエーション、いつもの作業の風景でも紹介しています。この記事は一般的な情報提供であり、個別の契約や権利関係を判断するものではありません。作品の契約や権利のことで迷ったときは、お住まいの市の障害福祉の窓口や専門機関にご相談ください。
よくあるご質問
- Q. 絵が上手でなくても、アート活動に参加できますか?
A. 上手かどうかよりも、自分のペースで表現を楽しむことを大切にしている事業所が多くあります。法律の基本理念でも、専門的な教育によらずに発揮された創造性が評価されていることにふれています。参加の仕方は事業所によって違うので、見学のときに聞いてみてください。 - Q. 「アール・ブリュット」とは何ですか?
A. 一般に、美術の専門的な教育を受けていない人が、自分の内側から生まれる衝動のままにつくった作品を指す言葉として使われています。障害のある人の作品だけを指す言葉ではありませんが、日本では障害のある人の作品を紹介する場面でよく使われています。 - Q. 作品が売れたら、そのお金はどうなりますか?
A. 誰がどのように代金を受け取るのか、手数料や材料費をどう扱うのかは、販売の方法や事業所・販売先との取り決めによって異なります。販売を始める前に、本人とご家族が納得できるよう説明を受け、できれば書面で確認しておくと安心です。 - Q. 作品を販売すると、障害年金や生活保護に影響はありますか?
A. 収入の扱いは、制度やご本人の状況によって異なります。生活保護を受けている方は、収入として申告が必要になる場合があります。ご自身の場合にどうなるかは、年金事務所や担当のケースワーカーなど専門機関にご相談ください。
「好きなことを続けられる場所がほしい」——その気持ちも、通う場所を選ぶ大切な理由のひとつです。見学の流れは見学って何をするの?でご紹介しています。さくら福祉訓練所(藤井寺市林6-6-30/072-926-8545・平日と祝日10:00〜16:30、土曜10:00〜14:00)とさくら作業所(堺市中区堀上町158-4/072-220-6027・平日10:00〜16:30)では、見学・体験は無料で、ご家族だけの見学も歓迎です。週1日・1日1時間からの通所ができ、知的・身体・精神いずれの障がいのある方もご相談いただけます。約9割の方が利用料の自己負担0円で通っておられ、障害年金と工賃は両方受け取れます。昼食は300円、送迎のご相談も承ります。藤井寺では衣類の検品・仕分け・販売や箱折り・シール貼りなどの軽作業、堺ではお弁当作りや調理補助、お米の選別、箸袋入れ、パソコン練習などに取り組んでおり、絵や詩を描くアート活動もあります。(出典:e-Gov法令検索「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」〔平成30年法律第47号〕第1条・第3条・第7条・第8条・第10条〜第14条・第16条、大阪府 令和6年度文化芸術部会資料「今後の大阪府における「文化芸術」を通じた障がい者が主体的に活動できる環境づくり・障がい理解の促進等に関する施策について」。いずれも2026年11月3日に確認。この記事は一般的な情報提供であり、個別の契約・権利・受給の判断や、診断・治療に関する助言ではありません。ご自身の場合は、お住まいの市の窓口・年金事務所など専門機関にご相談ください)