「もう50代。今さら何かを始めるのは無理だと思う」「親も高齢で、このまま家にいたらどうなるのか」——ご本人からも、ご家族からも、こうした言葉をうかがうことがあります。けれど、国の調査を見ると、50代でひきこもりの状態にある方は決して珍しくなく、そのきっかけは「退職」が最も多いことがわかっています。つまり、多くの方が一度は社会の中で働いてきた人です。この記事では、国の調査と令和7年1月に厚生労働省がまとめた「ひきこもり支援ハンドブック」の考え方をもとに、50代からでも変わり始めるときに多い順番と、堺市・藤井寺市から使える相談先を整理します。親が高齢になってからの世帯全体の支え方は8050問題と「家以外の居場所」と敬老の日に考える——高齢の親と、障がいのある子の「これから」でご紹介していますので、ここでは50代のご本人が一歩を踏み出すときに絞ってお伝えします。
50代のひきこもりは「珍しいこと」ではありません——国の調査から
内閣府が令和4年に行った「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和5年3月31日公表)では、40歳〜64歳のうち2.02%が、趣味の用事のときだけ外出する、近所のコンビニなどには出かける、自室からほとんど出ないといった状態が6か月以上続く「広義のひきこもり群」にあたるとされました。15歳〜64歳全体では、およそ50人に1人にあたります。
同じ調査の40歳〜69歳の回答では、いまの状態になった最も大きな理由は次のとおりでした。
- 退職したこと……42.2%(最も多い理由)
- 新型コロナの流行……17.0%
- 病気……14.8%
- 人間関係がうまくいかなかった……6.7%
- 介護・看護を担うことになった……5.2%
また、いまの状態になってからの期間は、40歳〜69歳では3年未満の方が約半数を占める一方、10年以上の方も15.5%おられます。長く続いている方も、比較的最近の方も、どちらも「あなただけではない」ということです。厚生労働省が運営する当事者の声のサイト「ひきこもりVOICE STATION」でも、ひきこもりは誰にでも起こりうること、「怠け」「親の甘やかし」といった見方は誤解であり偏見だと明記されています。
そもそも厚生労働省のガイドライン(平成22年)では、ひきこもりは「社会的参加を避けて、原則6か月以上おおむね家庭にとどまり続けている状態」を指す言葉で、状態をあらわす言葉であって、その人そのものではないと説明されています。「ひきこもりの人」ではなく「いま、ひきこもりの状態にある人」。言葉の使い方ひとつで、ご本人もご家族も、少し息がしやすくなるかもしれません。
「変わり始める」とは、就職することだけではありません
令和7年1月、厚生労働省は支援者向けの新しい指針「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」をまとめました。そこには、支援の対象となる方について「その状態にある期間は問わない」と書かれています。50代でも、10年以上続いていても、支援の対象から外れることはありません。
そしてハンドブックが目指す姿は、ご本人とご家族が自分の意思でこれからの生き方や社会との関わり方を決める「自律」です。社会参加や就労はその途中の過程であって、それだけが支援のゴールではないとはっきり書かれています。支援者に求められる姿勢として「敬意と労い」「尊重し、共に考える」「一歩ずつ支援する」が挙げられ、留意点には「支援の強要に注意する」「本人と家族の意向は異なる」ことも示されています。「働けるようにならなければ意味がない」と思い詰めなくて大丈夫、というのが国の考え方です。
では、実際に変わり始めた方は、どんな順番をたどることが多いのでしょうか。厚生労働省がひきこもり支援の行政説明資料で紹介している事例(モデル事業の支援事例を参考に作られたもの)では、高齢の父親と暮らす51歳の方が、支援員から手紙やチラシを部屋の前に置かれるかたちで時間をかけて関わりが続き、父親の入院をきっかけにご本人から相談機関へ連絡が入り、「働きたい気持ちはあるが長くひきこもっていたので自信がない」という思いから、就労準備支援事業で生活の立て直しから始めた、という流れが示されています。ここから読み取れる順番は、次のようなものです。
- まず、誰かとつながる——ご本人が動けないうちは、ご家族が先に相談につながることから始まります。同じ調査では、40歳〜69歳の方が相談先に求めることとして「無料で相談できる」(27.7%)、「相手が同じ悩みを持っている、持っていたことがある」(26.5%)、「相手先が公的な支援機関である」(23.2%)が上位でした。公的な窓口や家族会は、こうした条件を満たしやすい場所です。
- 次に、生活のリズムと「家以外の居場所」を整える——生活困窮者自立支援制度の「就労準備支援事業」は、社会との関わりに不安がある方や、人とのコミュニケーションがとりにくい方など、すぐに働くことが難しい方を対象に、原則として1年間、生活習慣の立て直しから社会参加までをプログラムで支援するしくみです。お住まいの市の自立相談支援機関(生活困窮の相談窓口)で相談できます。
- そのあとで、「働く練習」を小さく始める——就労継続支援B型は雇用契約を結ばず、週1日・1日1時間から通える「働く練習」の場です。面接も自己PRもいりません。くわしくは「ひきこもりから仕事を始めたい」と思ったらをご覧ください。なお、B型の利用には障害福祉サービスの受給者証が必要ですので、対象になるかどうかはお住まいの市の障害福祉の窓口にご相談ください。
この順番は、途中で戻ってもかまいませんし、1と2のあいだに何年もかかることもあります。ご家族が「何をしてはいけないか」「どう関わればよいか」で迷われたときは、動けない我が子に、親ができること・しない方がいいこともあわせてお読みください。
堺市・藤井寺市から使える、40歳以上の方の相談先
ひきこもりの相談窓口は、ご本人の年齢や住んでいる市によって分かれています。50代の方とそのご家族が使える主な窓口は次のとおりです(電話番号や受付時間は変わることがありますので、各市・府のホームページで最新の情報をご確認ください)。
- 堺市にお住まいの方——堺市こころの健康センターの「ひきこもり地域支援センター(成人期)」が、堺市内在住で40歳以上のご本人またはそのご家族などを対象に、無料・予約制で相談を受けています。まず「ひきこもり相談電話」に連絡して相談したい旨を伝えるしくみで、電話の受付は平日の午前10時から正午までです(土日祝日・年末年始を除く)。
- 藤井寺市にお住まいの方——大阪府ひきこもり地域支援センター(大阪府こころの健康総合センター内)が、ひきこもり状態にある方とそのご家族からの電話相談を受け、コミュニケーションの方法を考慮したうえで、後日、お住まいの地域の関係機関を紹介しています。受付は月〜金曜日の10時〜16時(祝日・年末年始を除く)で、ホームページには年齢の制限は書かれていません。電話が難しい方はファクシミリでも問い合わせできます(大阪市・堺市にお住まいの方は各市の窓口になります)。藤井寺保健所の「こころの健康相談」(松原市・藤井寺市・羽曳野市・柏原市にお住まいの方とご家族が対象、無料)も、こころの病気が背景にある場合の入口になります。
- どちらの市でも——生活のことも含めて相談したいときは、市の生活困窮者自立支援の相談窓口(自立相談支援機関)へ。上でご紹介した就労準備支援事業もここが入口です。親御さんが高齢で介護のことも重なっている場合は、親御さんの窓口である地域包括支援センターから、お子さんの相談につないでもらう道もあります。
どの窓口も、ご本人が来られなくても、ご家族だけで相談できます。「本人が動かないから相談できない」ではなく、「本人がまだ動けないからこそ、家族が先に相談する」が、国の支援の考え方にも合った順番です。
よくあるご質問
- Q. 50代からでも、ひきこもりの支援は受けられますか?
A. 受けられます。厚生労働省のひきこもり支援ハンドブック(令和7年1月)は、支援の対象となる方について「その状態にある期間は問わない」としており、年齢で区切ってもいません。堺市では40歳以上の方を対象にした「ひきこもり地域支援センター(成人期)」が、藤井寺市などでは大阪府ひきこもり地域支援センターが相談を受けています。 - Q. 本人が相談に行きたがりません。家族だけで相談してもいいですか?
A. はい、ご家族だけで相談できます。堺市のひきこもり地域支援センター(成人期)も大阪府ひきこもり地域支援センターも、ご本人だけでなくご家族からの相談を受けています。国の支援事例でも、ご本人が動くより先に、まわりが相談につながって時間をかけて関係をつくり、きっかけが訪れたときにご本人から連絡が入る、という流れが示されています。 - Q. 20年近く働いていません。いきなり仕事は無理だと思うのですが。
A. いきなり働く必要はありません。国のハンドブックでも、就労はあくまで過程であって、それだけがゴールではないとされています。まずは相談につながり、生活のリズムや家以外の居場所を整え、そのあとで就労準備支援事業や週1日・1日1時間から通えるB型事業所など、小さな「働く練習」を考える、という順番で十分です。どの段階が合うかは、相談窓口や専門機関と一緒に考えてください。 - Q. ひきこもりの状態でも、B型事業所に通えますか?
A. 就労継続支援B型は、知的・身体・精神の障がいのある方が対象の障害福祉サービスで、利用には市の支給決定(受給者証)が必要です。ひきこもりの背景に精神疾患や発達障害などがある場合は対象になることがありますので、まずはお住まいの市の障害福祉の窓口や相談支援専門員にご相談ください。さくら福祉訓練所・さくら作業所では、ご本人が来られなくても、ご家族だけの見学・ご相談をお受けしています。
50代からでも、変わり始めた人たちがいます。その多くは「いきなり働く」のではなく、「まず誰かとつながる」ことから始めています。さくら福祉訓練所(藤井寺市林6-6-30/072-926-8545・平日と祝日10:00〜16:30、土曜10:00〜14:00)では衣類の検品・仕分け・販売、箱折りやシール貼りなどの軽作業、絵や詩を描くアート活動に、さくら作業所(堺市中区堀上町158-4/072-220-6027・平日10:00〜16:30)ではお弁当作りや調理補助、お米の選別、箸袋入れなどの軽作業やパソコン練習に取り組んでいます。知的・身体・精神のどの障がいの方も利用でき、週1日・1日1時間からの通所ができます。約9割の方が利用料の自己負担0円で通っておられ、昼食は300円、送迎のご相談も承ります。見学・体験は無料で、ご本人と一緒でも、ご家族だけでもお越しいただけます。(出典:内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和4年11月調査・令和5年3月31日公表)および厚生労働省社会・援護局地域福祉課「ひきこもり支援施策について」掲載の同調査結果と支援事例、厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」概要(令和7年1月)、厚生労働省「ひきこもり支援推進事業」「生活困窮者自立支援制度」「ひきこもりVOICE STATION」、堺市「専門相談(ひきこもり地域支援センター(成人期))」、大阪府「大阪府ひきこもり地域支援センター」「藤井寺保健所 こころの健康相談」。いずれも2026年10月18日に確認。この記事は一般的な情報提供であり、診断や医療的な助言ではありません。ご本人の状態や制度の利用については、上記の相談窓口、主治医、お住まいの市町村の担当窓口など専門機関にご相談ください)