「いつかは親元を離れたい」「でも、自分に一人暮らしなんてできるだろうか」——精神障がいのある方やそのご家族から、よくいただくご相談です。ご本人は「家族に迷惑をかけたくない」と思い、ご家族は「体調を崩したときに誰も気づけないのでは」と心配される。どちらの気持ちも、とてもよくわかります。精神障がいがあっても、一人暮らしをしている方はたくさんいらっしゃいます。ただし、全部をひとりでやりきっているわけではありません。住まい・暮らし・医療・お金のそれぞれに、支えてくれるしくみがあります。この記事では、その全体像と、あわてて失敗しないための「順番」を整理します。
一人暮らしを支える制度は「住まい」「暮らし」「医療」「お金」の4つ
一人暮らしの不安は、ひとかたまりのままだと、とても大きく見えます。ですが分けてみると、たいていは次の4つに収まります。そして、それぞれに使えるしくみがあります。
① 住まい——「部屋を貸してもらえるだろうか」
- セーフティネット住宅(入居を拒まない賃貸住宅)……国は、障がいのある方、高齢の方、低額所得の方、子育て世帯などを「住宅確保要配慮者」と位置づけ、その入居を拒まない民間賃貸住宅を登録するしくみをつくっています。大阪府では「大阪あんぜん・あんしん賃貸住宅登録制度」として運用されています。
- 居住サポート住宅……2025年10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法で新しくできたしくみです。安否確認のサービスや、居住支援法人などによる訪問・見守り、必要なときに福祉サービスにつなぐ支援がセットになった住宅で、「借りたあとも一人にしない」という考え方でつくられています。
- 居住支援法人・入居協力店……大阪府には、行政・公的住宅事業者・民間の不動産事業者などでつくる「Osakaあんしん住まい推進協議会」(2015年3月設立)があり、「大阪あんぜん・あんしん賃貸検索システム」で入居協力店や居住支援法人の情報を調べられます。「どこの不動産屋さんに行けばいいのかわからない」という段階から相談できます。
- 公営住宅……大阪府営住宅には、障がいのある方が単身で申し込める福祉世帯向けの区分や、収入の基準がゆるやかになる「裁量世帯」という扱いがあります。手帳の種類や障がいの程度などの条件がありますので、募集ごとの案内をご確認ください。
② 暮らし——「困ったときに、誰も気づいてくれないのでは」
- 自立生活援助……施設やグループホーム、精神科病院などから一人暮らしに移った方などを対象に、支援員が定期的にお住まいを訪問してくれるサービスです。食事・洗濯・掃除で困っていないか、公共料金や家賃の滞納はないか、体調は変わりないか、通院できているか、ご近所との関係はどうか、といったことを一緒に確認し、必要な助言や医療機関との連絡調整をしてくれます。訪問のときだけでなく、こちらから相談したいときに電話やメールなどで随時応じてもらえるのも心強いところです。標準の利用期間は1年ですが、市町村が必要と認めた場合は更新することもできます。
- 地域定着支援……一人で暮らしている方などと常時の連絡体制をつくり、体調が急に悪くなったときなど、緊急時に必要な支援を行うサービスです。ご家族と同居していても、緊急時にご家族からの支援が見込めない状況にある方が対象になる場合もあります。
- 地域移行支援……いま精神科病院に入院中の方や、施設に入所中の方が、住まいの確保をはじめ地域での暮らしに移るための支援を受けられるサービスです。「そろそろ退院を」と言われた段階からではなく、考え始めた段階から相談できます。
- 居宅介護(ホームヘルプ)……調理や掃除、洗濯、買い物などの家事を手伝ってもらえるサービスです。「家事が全部できないと一人暮らしはできない」わけではありません。苦手なところだけ手伝ってもらう、という使い方ができます。
なお、いきなり一人暮らしではなく、グループホームを経由する道もあります。グループホームは2024年(令和6年)4月から、一人暮らし等を希望する入居者への支援や、退居したあとの相談なども支援の内容として位置づけられました。「住まいの練習の場」として使えるということです。くわしくはグループホームに住みながらB型に通えますか?をご覧ください。
③ 医療——「通院と服薬を続けられるだろうか」
- 自立支援医療(精神通院医療)……精神科への通院を続ける必要がある方の医療費の自己負担を軽くする制度です。外来の診察や外来でのお薬だけでなく、デイケアや訪問看護も対象になります(いずれも指定自立支援医療機関で受けた場合)。一人暮らしでは、訪問看護が体調の変化に早く気づく「もう一つの目」になってくれることがあります。くわしくは通院費が1割負担になる「自立支援医療」をご覧ください。
④ お金——「家賃と生活費を払っていけるだろうか」
- 収入の柱になりうるのは、障害年金、手当、就労による収入(B型の工賃を含む)、そして生活保護などです。障害年金とB型の工賃は、どちらか一方しか受け取れないというものではありません。この点は障害年金をもらいながらB型で働けますか?でくわしくご紹介しています。
- 家賃や生活費の見通しが立たないときは、ひとりで計算して結論を出すより、市の窓口や相談支援専門員と一緒に数字を並べてみてください。使える制度が抜けていることが少なくありません。
大事なのは順番——いきなり部屋を探しに行かないでください
一人暮らしでつまずきやすいのは、「気持ちが固まった勢いで部屋だけ先に決めてしまう」ケースです。制度は、住み始めてから慌てて申し込むと間に合わないものもあります。おすすめしたいのは、次の順番です。
- 1. いまの暮らしを「できていること」「手伝ってもらっていること」に分けて書き出す……ご飯、洗濯、掃除、お金の管理、通院、お薬、朝起きること、人に連絡すること。家族が当たり前のようにやってくれていることほど、見落とされがちです。この書き出しが、あとで「どの支援を頼むか」を決める材料になります。
- 2. 相談支援専門員か、市の障害福祉の窓口につながる……障害福祉サービスを使うには、サービス等利用計画をつくる相談支援専門員が関わります。すでにサービスを利用している方は、その相談支援専門員に「一人暮らしを考えている」と伝えるところから。まだの方は、お住まいの市の窓口(藤井寺市は福祉総務課、堺市は各区の障害者基幹相談支援センターなど)にご相談ください。
- 3. 「やってみる」段階を挟む……グループホームの体験利用、ショートステイ、家族が留守のあいだの数日間など、小さく試せる機会があります。やってみて初めて「ここは大丈夫」「ここは支援が要る」がわかります。
- 4. 日中の通う先を先につくる……意外に思われるかもしれませんが、これがとても大切です。日中ずっと部屋にいると、生活のリズムが崩れやすく、体調の変化にも気づきにくくなります。週に何日か通う場所があり、そこに自分のことを知っているスタッフや仲間がいることは、一人暮らしの土台になります。
この4番目を担えるのが、就労継続支援B型のような日中活動の場です。さくらでも、グループホームや一人暮らしをしながら通っておられる方がいらっしゃいます。
藤井寺・堺では、まずどこに相談すればいい?
- 相談支援専門員……いま障害福祉サービスを使っている方は、いちばん近い相談相手です。住まいのことも含めて相談できます。
- 市の障害福祉担当窓口・基幹相談支援センター……藤井寺市は福祉総務課、堺市は各区に障害者基幹相談支援センターがあり、来所・訪問・電話で相談に応じています。まずは電話で「一人暮らしを考えているので相談したい」と伝えれば大丈夫です。
- 障害者就業・生活支援センター……働くことと暮らしのことをまとめて相談できます。くわしくは障害者就業・生活支援センターとは?をご覧ください。
- 居住支援の窓口……部屋探しの段階では、Osakaあんしん住まい推進協議会の検索システムで、入居協力店や居住支援法人を調べられます。福祉の相談窓口と住まいの窓口は別々なので、両方を使うのがコツです。
どの制度が使えるか、いつから使えるかは、お一人おひとりの状況や市町村の判断によって変わります。「自分はどれに当てはまるのか」は、必ず窓口でご確認ください。
よくあるご質問
- Q. 家事がほとんどできないのですが、それでも一人暮らしはできますか?
A. 「全部できるようになってから」と考える必要はありません。調理や掃除、洗濯、買い物などは居宅介護(ホームヘルプ)で手伝ってもらうことができますし、定期的に訪問してくれる自立生活援助もあります。どこを自分でやり、どこを支援に頼むかを一緒に考えてくれるのが相談支援専門員です。まずは、いまできていることと手伝ってもらっていることを書き出すところから始めてみてください。 - Q. 夜中に体調が急に悪くなったとき、どうすればいいですか?
A. 一人で暮らしている方などと常時の連絡体制をつくり、緊急時に支援を行う「地域定着支援」というサービスがあります。市町村によっては、緊急時の受け入れや対応を地域の事業所が連携して担う「地域生活支援拠点等」のしくみもあります。あわせて、かかりつけの医療機関の夜間の連絡先を事前に確認し、目につくところに貼っておくことをおすすめします。 - Q. 精神障がいがあると、部屋を貸してもらえないのではと不安です。
A. 不安に思われるのは当然ですが、入居を拒まない賃貸住宅を登録するセーフティネット住宅の制度や、2025年10月に始まった居住サポート住宅、居住支援法人による入居中のサポートなど、貸す側と借りる側の双方の不安を減らすしくみが広がっています。大阪府では「大阪あんぜん・あんしん賃貸検索システム」で入居協力店や居住支援法人を探せますので、一般の物件情報だけで判断せず、こうした窓口も使ってみてください。 - Q. 親としては心配です。反対したほうがいいのでしょうか。
A. 心配なお気持ちは自然なことです。ただ、反対して話を止めてしまうより、「どうすれば安心して試せるか」に話を向けるほうが、結果的にご本人の力になることが多いです。グループホームの体験利用やショートステイなど、小さく試せる機会もあります。ご家族だけで抱え込まず、相談支援専門員や市の窓口も交えて一緒に考えてみてください。
「一人暮らしができるかどうか」は、ご本人の頑張りだけで決まるものではありません。どんな支援が周りにあるかで、できることは変わります。さくら福祉訓練所(藤井寺市林6-6-30/072-926-8545・平日と祝日10:00〜16:30、土曜10:00〜14:00)では衣類の検品・仕分け・販売、箱折りやシール貼りなどの軽作業、絵や詩を描くアート活動に、さくら作業所(堺市中区堀上町158-4/072-220-6027・平日10:00〜16:30)ではお弁当作りや調理補助、お米の選別、箸袋入れなどの軽作業やパソコン練習に取り組んでいます。週1日・1日1時間からの通所ができ、約9割の方が利用料の自己負担0円で通っておられます。昼食は300円、送迎のご相談も承ります。C・ドリームの会ではグループホームも運営していますので、住まいのことも含めてご相談いただけます。見学・体験は無料で、ご家族だけでもお越しいただけます。(この記事は、一人暮らしに関わる制度の一般的な情報提供です。医学的・法的な助言ではありません。症状や服薬、生活の変化については主治医に、障害福祉サービスの支給決定や対象の可否はお住まいの市の障害福祉担当窓口や相談支援専門員に、住まいの契約については居住支援の窓口や専門機関にご相談ください。出典:厚生労働省「自立生活援助、地域移行支援、地域定着支援、自立訓練(生活訓練)に係る報酬・基準について」、厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)について」、厚生労働省「令和6年4月施行 障害者総合支援法等の改正」、国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」、大阪府「Osakaあんしん住まい推進協議会」、大阪府「障がいのある者が、府営住宅に入居するための要件」、堺市「障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス一覧」)