「統合失調症の人は、どれくらい働いているんだろう」——ご本人からも、ご家族からも、見学の席でよくいただくご質問です。検索してもはっきりした答えが出てこなくて、もやもやしたまま来られた方もいらっしゃると思います。最初に、正直にお伝えします。「統合失調症のある人のうち何%が働いているか」を示した全国統計は、現在のところ公表されていません。国の調査は、病名ごとではなく「障害の種類」や「手帳の有無」で数えているからです。ただ、近いところを教えてくれるデータは、いくつもあります。そして、それらを並べてみると、思っていたよりずっと明るい景色が見えてきます。この記事では、厚生労働省の一次資料にあたって、その数字を整理しました。働き方そのものの工夫については統合失調症があっても働ける?——再発を防ぎながら「働く練習」をする方法もあわせてご覧ください。
まず知っていただきたいこと——入院は20年で4割減りました
働く話の前に、土台になる変化からお話しさせてください。厚生労働省が「患者調査」をもとに作成した資料によると、統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害で入院している方の数は、平成14年の20.3万人から、令和5年には12.6万人になりました。およそ20年で4割近く減っています。減り方は一度もぶれることなく、調査のたびに下がり続けています。
同じ資料では、精神疾患で通院している外来患者数は約576.4万人、入院患者数は約26.6万人とされています。つまり精神疾患で医療にかかっておられる方の大多数は、入院ではなく、地域で暮らしながら通院しておられるということです。かつて「統合失調症=長い入院」というイメージがあった時代から、薬や支援の選択肢が増え、「街で暮らしながら治療を続ける」ことがふつうになってきました。
この変化は、そのまま「働く」という話につながります。地域で暮らしている人が増えたということは、働くことを考えられる人が増えたということだからです。もちろん体調の波はありますし、回復のスピードも人それぞれです。それでも、統計の上でも「働くことを考えてよい時代になった」と言える——これが1つ目のデータです。
働いている人の数を、3つの角度から見てみます
①企業で働いている精神障害のある方は、16万8,542.0人。厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」(令和7年12月19日公表、令和7年6月1日現在)によると、民間企業で雇用されている障害者の数は70万4,610.0人で、22年連続で過去最高を更新しました。そのうち精神障害者は16万8,542.0人、対前年比11.8%増。身体障害者(1.3%増)、知的障害者(2.8%増)と比べて、精神障害者の伸び率がいちばん大きいと報告されています。なお、この数字は短時間勤務の方を0.5人と数えるなど法律上の数え方によるもので、雇用義務のある規模の企業が対象です。実際に働いている「人数」そのものではない点だけ、頭の片隅に置いてください。
②別の調査では、推計21万5千人。5年に一度行われる厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」(令和6年3月27日公表)では、雇用されている精神障害者は推計21万5千人とされています。前回の平成30年度調査では20万人でしたので、こちらも増えています。①とは調査も数え方も違うので単純比較はできませんが、おおよそ「20万人前後の方が、企業で働いておられる」とイメージしていただければと思います。
③そのうち統合失調症は、少なくとも12.2%。同じ実態調査には、疾病別の内訳があります。そううつ病(気分障害)17.0%、統合失調症12.2%、てんかん6.3%、その他16.6%——ただしここで大事なのは、「不明(精神障害者保健福祉手帳所持者に限る)」が46.3%を占めていることです。事業所が手帳で確認しているだけで病名までは把握していない、というケースがこれだけあるということです。つまり12.2%は「上限」ではなく「下限」です。実際に統合失調症のある方がどれだけ働いておられるかは、この数字より確実に多いと考えられます。21万5千人の12.2%はおよそ2万6千人ですが、これを「これだけしかいない」と読むのは、データの読み方として正しくありません。
そして、企業以外の場で働いている方がいます。厚生労働省「令和6年 社会福祉施設等調査」によると、就労継続支援B型の事業所は全国に17,973か所あり、令和6年9月の1か月間に502,992人が利用しておられます(利用者1人あたりの利用日数は月8.9日)。50万人という数字は、障害福祉サービスの中でいちばん多い人数です。B型は雇用契約を結ばずに自分のペースで働く場ですので、①②の「雇用者数」には含まれていません。「企業で働く」だけが働くではない、ということが、この50万人という数字にあらわれています。B型から一般就労へ進む道筋についてはB型から一般就労へ——ステップアップの道すじをご覧ください。
本当に大事なのは「入れるか」より「続くか」——平均勤続5年3月という変化
数字の中で、私たちがいちばん注目しているものがあります。精神障害者の平均勤続年数は5年3月。前回(平成30年度)調査の3年2月から、2年以上のびました。精神障害のある方の就労は長らく「入っても続かない」と言われてきました。その常識が、5年に一度の全国調査ではっきり変わったということです。
なぜ続くようになったのか。同じ調査の別の項目に、答えらしきものが並んでいます。精神障害のある方を雇用している事業所が実際に行っている配慮は、多い順に「短時間勤務等 勤務時間の配慮」54.3%、「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等 休養への配慮」50.9%、「通院・服薬管理等 雇用管理上の配慮」49.2%です。体調に合わせて時間を減らせること、休めること、通院を続けられること。この3つが、続けられるかどうかを分けているように読めます。
賃金も見ておきます。精神障害者の1か月の平均賃金は14万9千円。週の所定労働時間別では、通常(30時間以上)の方が19万3千円、20時間以上30時間未満の方が12万1千円です。短い時間で働いている方がそれだけ多いということでもあります。フルタイムでなければ働いたことにならない、ということはありません。
ひとりで抱え込まずに済む仕組みも育っています。精神障害のある方の職場定着で事業所が連携した先は、障害者就業・生活支援センターが50.2%、ハローワークが42.1%。仕事と生活の両方をまとめて相談できる窓口については障害者就業・生活支援センターとは?で詳しくご紹介しています。制度の側も動いていて、令和8年7月から民間企業の法定雇用率は2.5%から2.7%に引き上げられ、対象となる企業の範囲も従業員37.5人以上に広がりました(9月は障害者雇用支援月間)。企業が障がいのある人材を探している、という追い風は確かに吹いています。
最後に、数字から少し離れたことを書かせてください。ここまでの統計は「働けるかどうか」を判定するものではありません。回復の道のりも、働くペースも、人それぞれです。今日は数字を「そういう人たちが確かにいる」という事実として受け取っていただければ十分です。診断や治療、復職の時期については、必ず主治医など専門機関にご相談ください。
よくあるご質問
- Q. 結局、統合失調症の人のうち何割が働いているのですか?
A. その割合を直接示した全国統計は、現在のところ公表されていません。国の調査は病名ではなく障害の種類や手帳の有無で集計しているためです。近いデータとしては、厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」で雇用されている精神障害者が推計21万5千人、その疾病別内訳で統合失調症が12.2%とされています。ただし同じ調査で「不明(精神障害者保健福祉手帳所持者に限る)」が46.3%を占めており、事業所が病名まで把握していないケースが多いため、12.2%は実態の下限とお考えください。割合がはっきり出ないことを「少ないから」と受け取る必要はありません。 - Q. 統合失調症だと、一般企業では働けないのでしょうか?
A. そのようなことはありません。厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」では、民間企業で雇用されている精神障害者は16万8,542.0人で、対前年比11.8%増と身体障害者・知的障害者を上回る伸び率でした。令和8年7月からは民間企業の法定雇用率が2.7%に引き上げられ、対象となる企業の範囲も従業員37.5人以上に広がっています。一方で、いきなり一般就労を目指さなくてもかまいません。就労継続支援B型で働く練習から始めて、体調が整ってから次の段階を考える方も大勢おられます。 - Q. 短い時間しか働けなくても、意味はありますか?
A. 十分にあります。厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」では、精神障害者を雇用している事業所が行っている配慮のうち最も多いのが「短時間勤務等 勤務時間の配慮」で54.3%、次いで「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等 休養への配慮」50.9%でした。同じ調査で精神障害者の平均勤続年数は5年3月と、前回調査の3年2月から2年以上のびています。時間を調整できることが、長く続けられることにつながっていると読み取れます。さくら福祉訓練所・さくら作業所も、週1日・1日1時間からの通所ができます。 - Q. まだ働ける自信がありません。それでも見学していいですか?
A. もちろんです。「働けるようになってから」ではなく、「どんな場所なのか見てみる」だけで結構です。見学・体験は無料で、ご本人がしんどいときはご家族だけでお越しいただいても構いません。作業を見ていただくだけで帰られる方もいらっしゃいます。なお、体調や治療の見通し、いつから働く練習を始めるのがよいかといった判断は、主治医など専門機関にご相談ください。事業所としては、主治医や相談支援専門員と連携しながら通所のペースを一緒に考えていくことができます。
数字は、ときどき人を励ましてくれます。この20年で入院は20.3万人から12.6万人に減り、企業で働く精神障害のある方は増え続け、平均勤続年数は3年2月から5年3月にのびました。同じ道を歩いている人が、確かにたくさんいます。さくら福祉訓練所(藤井寺市林6-6-30/072-926-8545・平日と祝日10:00〜16:30、土曜10:00〜14:00)とさくら作業所(堺市中区堀上町158-4/072-220-6027・平日10:00〜16:30)では、衣類の検品・仕分け・販売、箱折りやシール貼りなどの軽作業のほか、絵や詩を描くアート活動にも取り組んでいます。週1日・1日1時間からの通所ができ、障害年金と工賃は両方受け取ることができます。約9割の方が利用料の自己負担0円で通っておられ、昼食は300円、送迎のご相談も承ります。見学・体験は無料、ご家族だけの見学も歓迎です。(出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果」(令和6年3月27日公表)、厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」(令和7年12月19日公表)、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「精神保健医療福祉の現状等について」(「患者調査」より作成)、厚生労働省「令和5年(2023)患者調査」、厚生労働省「令和6年(2024)社会福祉施設等調査の概況」、厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げについて」。いずれも2026年9月15日に確認。この記事は一般的な情報提供であり、診断・治療・就労可否に関する医学的助言ではありません。ご自身の場合については、主治医・相談支援専門員・障害者就業・生活支援センターなど専門機関にご相談ください)